イベント報告
Rota Coffee Project part 12
ロタコーヒー農園復活プロジェクト第12弾
【人生、何が起こるかわからない】

我々KFCトライアスロンクラブ(以後、KFCと称す)が1994年4月からロタ島で始めたトライアスロン大会が2015年で継続が困難になりました。原因はロタ島の長引く経済不況です。そこで、先ずはロタ島経済を復興させ、その次にトライアスロン大会を復活させようと思い、2017年に「ロタコーヒープロジェクト」を始めました。「ロタコーヒープロジェクト」とは、山奥にあり、島民の誰もが見たことのないという島伝承のコーヒー群生地を見つけ出し、それでどん底のロタ経済を復興させてやろうというものです。大西の「それは山にある」という直感だけで始まったプロジェクト。誰が見ても乱暴と思えるプロジェクトですが、強い信頼関係の証です。

そんな思いで2017年6月に「ロタコーヒープロジェクト」をスタートさせ、6つのミラクルを経て、ロタ政庁が本腰を入れ、コーヒー試験農園を造成したのを機に、そのプロジェクトがひと段落しと感じました。その頃はパンデミックの最中で全ての活動は制限され、自由な時間が十分にありました。そこで、ロタコーヒーの存在を広く告知するため、それまでのストーリーを記したノンフィクション書籍「ROTA BLUE COFFEE」の執筆を2021年9月に開始し、同年11月にアマゾンから発売されました。「まさか自分が本を執筆するなんて、人生、何が起こるかわからない」ものです。そして、その本がきっかけとなり、NHKでのドキュメンタリー番組(尺89分)の放映が決まりました。これも「人生、何が起こるかわからない」ものです。それは2023年3月にNHKBSで「小さな島のコーヒー大作戦」として初回放送され、その後の約1年間で8回もの再放送がありました。

さらに翌2022年7月には書籍「ROTA BLUE COFFEE」の英語版が世界中の先進国11か国でアマゾンから同時発売されました。これも「人生、何が起こるかわからない」ものです。そして、その本がフランスでグルマン世界料理本大賞の主催者エドアード・コアントローさんの目に留まり、2023年に北欧スウェーデンで権威あるグルマン賞のグランプリを受賞しました。それも主催者推薦という日本初のケースでの受賞です。これが7つ目のミラクルとなりました。これも「人生、何が起こるかわからない」ものです。因みに、コアントローさんは世界中で販売されているリキュール「コアントロー」で有名なコアントロー家の当主です。続く翌2024年7月に渋谷にある「JICA東京国際センター」で日本へ研修に来られている途上国政府職員の皆さんへ「ロタコーヒープロジェクト」に関する講演を依頼されました。JICA(Japan International Cooperation Agency)とは(独行)日本国際協力機構のことです。我々の活動がJICAで評価されるなんて、夢にも思いませんでした。これも「人生、何が起こるかわからない」ものです。

【JICAでの講演】

北欧スウェーデンでのグルマン賞授賞式は英語でのスピーチという点で緊張しましたが、JICAでの講演は、別の意味で大いに緊張しました。最初は安易に引きうけたのですが、だんだんと責任感を感じてきました。とにかく講演なるものは人生で初めてですから。JICAの場合、グルマン賞と違い通訳者の同席があるので日本語で話せます。それでも講演時間が午前に1時間、午後に1時間の計2時間もあり、講演内容も多い。依頼してくれたJICA担当者に迷惑をかけてはいけない。どうやって進行すればよいのか分からず、近づくにつれ、徐々に不安が募ってきました。そこでKFC専属MCの沢野さんにアドバイスを仰ぎました。時間配分が肝というアドバイスをもらい、もやもやがクリアになりました。沢野さんはフリーアナウンサーという職業柄、講演経験等々は豊富です。

ことの始まりは一本の電話です。2023年末にJICAから講演依頼の電話がありました。2024年7月に渋谷区にある「JICA東京国際センター」で日本へ研修に来られている途上国政府職員の皆さんへ、我々KFCが取り組んでいる「ロタコーヒーピロジェク」に関する講演をして欲しいという依頼です。講演テーマに関しては、午前中の1時間目は「トライアスロンと観光促進」、ランチを挟んで午後の2時間目は「コーヒーと観光促進」を依頼されました。

受講される研修員さんはアジア、南米、アフリカ、ヨーロッパ等々の13か国から訪日されています。国名はモンゴル、ネパール、ペルー、ソロモン諸島、東チモール、アルメニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、エジプト、エチオピア、ヨルダン、コソボ、マラウイ、ザンビアです。この内、コーヒーを栽培している国はコーヒー発祥の地であるエチオピア、それにペルー、ソロモン諸島、東チモール、ネパール、マラウイの5か国です。加えて、KFCメンバー数名と番組制作会社テムジン(株)のプロジューサー矢島さん、トライアスロン雑誌ルミナの編集長村山さんも受講しました。

JICA担当者から1か月前に講演資料をパワーポイントで作り、送って欲しいという依頼がありました。写真を張り付けて30ページほどの資料になりました。それがよかったのは、英語に翻訳し、前もってそれが研修員の皆さんへ渡っており、そのお陰でスムーズな進行ができました。講演中にコーヒー発祥地エチオピアの研修員さんやコーヒー生産国である東チモールやマラウイの研修員さん、それに、コーヒー栽培とは無関係の東欧アルメニアの研修員さん等々から質問や意見が出て、熱を帯びた講演になりました。受講された研修員さんは各国の若手政府職員です。皆さん、優秀で、将来、国を背負う有望なエリートたち、と感じました。

また、最終の質疑応答時に想定外の出来事が起こりました。ペルーの研修員さんが講演資料にある1879年のスペイン文献をすらすら読み始めたのです。文体が古くて専門家でも全てを解読できなかったものです。教室内に一斉に拍手が湧きました。何と、彼女は図書館勤務で古文を勉強したことがあるということでした。ペルーもロタと同じく過去に大航海時代の約300年間はスペインの植民地で、その所為で公用語は現在もスペイン語です。そんなこんなで、我々にとっても貴重な国際交流の場になりました。また、ロタコーヒーの存在をグルマン賞に続き、世界へ拡散する機会を与えてもらいました。JICAに感謝です。

【産経新聞の取材】

時間は1年前に戻ります。昨年、スウェーデンから帰国後、まもなく産経新聞からロタコーヒーに関する取材がしたいと連絡がありました。

産経新聞に1年以上前から第2次世界大戦後の日本人の足跡を綴った「南と北の島物語・樺太と南洋統治」というタイトルで、隔週シリーズものとして紙面を執筆されている編集委員の方からの依頼です。そこの35回目と36回目にロタコーヒー関連を掲載したいということでした。それで、KFCの活動拠点「成木ガーデン」で取材を受けました。元々知識が豊富な方で、すでに取材や資料の調査をされており、多くのことをご存じでした。また、この件に関しては、大西だけでなく、UCC上島珈琲(株)農事調査室長の中平さんにも取材されています。

この記事には戦前にロタコーヒーがハワイ・コナから持ち込まれた経緯が詳しく載っています。当時のハワイで財を成した住田多次郎が国産コーヒーを夢見て、南洋珈琲(株)を設立し、当時日本の統治下にあったサイパン島とロタ島でコーヒー栽培を始めたことに由来します。その産経新聞の記事には、2023年8月2日付け「日本人が夢見た南洋コーヒー」として、また2023年8月26日付け「80年前のコーヒー奇跡のリレー」として大きく掲載されました。それらの紙面は【こちら】をご覧ください。因みに、当時の南洋珈琲(株)の前身は現在の(株)エム・シー・フーズです。

【トライアスロン雑誌「LUMINA」の取材】

昨年夏にLUMINA編集長村山さんがわざわざ「成木ガーデン」まで取材に来てくれました。村山さんとは彼のランナーズ時代からの付き合いで、書籍「ROTA BLUE COFFEE」を世に出すに時、アマゾンからの発売に尽力してくれた経緯があり、今に至ったキーマンです。そんな関係で、以前から大西のことはよく知っており、実際には、雑談して、記事用の写真だけを撮って帰ったという感じです。もちろん、カメラマンはKFC専属の小野口くんです。

そして、昨年の10月2日発売のトライアスロン雑誌「LUMINA」に「ROTA BLUE COFFEEと7つのミラクル」というタイトルで4ページにわたって、 「ロタコーヒープロジェクト」が掲載されました。

1993年のKFCとロタ島の出会いから、その後のロタ島伝承のフォレストコーヒー群生地の発見、書籍「ROTA BLUE COFFEE」の執筆、アマゾンでの日本国内発売と世界の先進国11か国での英語版の同時発売、NHKBS90分ドキュメンタリー番組「小さな島のコーヒー大作戦」の放映、そして、北欧スウェーデンでのグルマン賞受賞に至るまで、上手くまとめて書いてあります。LUMINAの掲載内容は【こちら】をご覧ください。

【書籍「専門家が語るコーヒーとっておきの話」に掲載】

昨年末、日本コーヒー文化学会から設立30周年記念出版本「専門家が語る! コーヒーとっておきの話」が旭屋出版から発売されました。日本コーヒー文化学会の専門家が綴ったコーヒーにまつわる最新の情報を一冊にしたものです。コーヒー通には貴重な1冊と思います。

その中に日本コーヒー文化学会のメンバーであるUCC農事調査室長の中平さんが記した『サンゴの森に眠るコーヒー』~日本人が遺し古の森が育んだ南洋の赤い真珠 ROTA BLUE COFFEE ~というタイトルの文章があります。我々素人目線からではなく、専門家の目線から見たフォレストコーヒー群生地の感想が綴ってあります。以下はその一部抜粋です。

「2019年8月大西さんと現地に向かいコーヒーの群生と対面した。その光景は、まさに『奇跡』と呼ぶに相応しいものだった。サンゴが隆起してできたその森はコーヒーにとっては、必ずしも適した環境とは言い難い。南の島特有の高温多湿、アルカリ性の土壌、毎年定期的に訪れる台風の被害。なにより、元は人の手で育てられていた作物が放棄され、野生化して行く過程では、在来の植生に打ち勝ち、生き残るケースはほとんど無い。この群生地を有する『アスアコード地区』は、そんなセオリーに反して在来の木々の中でコーヒーの木が生き生きと繁殖し、生態系の一部として既に組み込まれている。隆起サンゴ礁の深い森が南国の強い日差しや台風から木を守り、太古の姿でコーヒーを育んでいた。まさに奇跡のバランス。ここにあるのは、自然に世代交代を繰り返し生き続ける野生のフォレストコーヒーそのものだ。周りの苔や根元の落ち葉を払うとテーブルサンゴがそのままの形で化石化している。目を閉じると、この森の中をかつてはサメや熱帯魚が元気に回遊していたであろう姿が思い浮かぶ。とても幻想的だ」。

【パンデミック後、1年ぶりにロタ島へ】

今年1月11日から1週間、コーヒーの視察にロタへ行ってきました。前回の訪問はパンデミック最中の2022年12月です。丸1年ぶりのロタ訪問になります。その間、作業の進捗に関して、ロタDLNR(国土天然資源局)局長デビット・カルボとやり取りをしていました。しかし、余り芳しくないやり取りで、お金なないので進まないという愚痴です。財源がないのは百も承知です。それでも自分たちでできることをやる以外はありません。それが成功への唯一の道なのですから。そして、財源の手当ても自分たちで何とかするようにプッシュする以外はありません。因みに、前回の訪問はNHKBSドキュメンタリー番組制作の現地取材が目的でした。

過去30年間のロタ島民との付き合いから日本など他国から投資を受けた事業はすべて失敗に終わっています。例えば、4軒あったホテル事業や建設業、それにスーパーマーケット事業等々です。その結果が現在の何も残っていない状況です。我々は、もらうことに慣れてしまったロタにおいて、安易な投資は上手くいかないことを過去から学んでいます。安易にお金をもらうと努力しなくなるのが人の性です。「マリアナに幾らお金を注ぎ込んでも砂浜に吸い込まれていくだけ」という投資家たちの格言があるくらいです。プロジェクト成功のカギは「彼らが彼ら自身で財源の手当てをすること」と考えています。幸い、我々には投資する資金もないし、「コーヒープロジェクト」をビジネスにするつもりもありません。目的は、ロタ経済を復活させ、友人であるロタ島民と一緒にトライアスロン大会を再開することです。

この時の訪問チームは、我々KFCメンバー(西田、中屋、樋渡、市川、大西)以外にUCCの中平さん、それに初来島の番組制作会社テムジン(株)のプロデューサー矢島さんと(株)ジャイロスコープのCEOの桂さんの8名です。

【新市長アービー・ホッコク訪問】

ロタ空港へ到着後、先ずは、2023年1月にロタ市長に就任したアービー・ホッコク市長を市庁舎に訪ねました。ロタ初の女性市長で、且つ、年齢30代前半の若い市長です。アービー市長は前市長エフレン・アタリックの部下だったこともあり、「コーヒープロジェクト」に関しては協力的で、始まりからの経緯もよく知っています。だから、改めてイチから説明する必要がないのは助かります。また、我々KFCの「ロタブルートライアスロン大会」のボランティアとして若い頃から手伝ってくれており、我々KFCの何たるかをよく分かっています。

【グルマン賞受賞の効果】

この時のロタ訪問で、ようやくロタコーヒーの存在が近隣の島々へも知れ渡ったと感じました。デビットへはサイパンからロタコーヒーの苗木を売ってくれとか、グアムTVからはコーヒーの取材をしたい等々の依頼があるそうです。これらの変化は我々が昨年5月にロタとは真逆の地である北欧スェーデンでグルマン賞を受賞したのを機に始まったと感じています。ここマリアナ界隈でもグルマン賞の受賞は話題になり、ようやくロタコーヒーは本物と誰もが認識したようです。グルマン賞は英語版が条件なので、日本より、海外の方が知名度があります。その結果、島外から注目されることになり、ロタ島民自身もようやくロタコーヒーの価値が認識できたようです。それらを受け、デビットが「コーヒーの苗木は誰にも渡さない」と唸るようにつぶやいていたのがおかしい。

【大西の提案】

市長室で我々8名とデビットたちDLNRスタッフ4名、それにアービー市長を加えての打ち合わせをしました。その席で、「デビットたちが指導して、サイパンで観光用のコーヒー農園を造ることを条件にサイパンからロタコーヒー栽培資金を得たらどうか」と切り出しました。理由は、常日頃から「ロタコーヒープロジェクト」を進めるのあたり資金が足りないとデビットがぼやいていたからです。それに加えて、グルマン賞受賞後にマリアナ政府観光局のスタッフが東京に来て、サイパンにも観光用のコーヒー農園を造って欲しいと望んだからです。しかし、この大西の提案は皆に即刻却下されました。結局、UCC中平さんのアドバイスでロタコーヒーが販売できるようになった後なら、「それも有り」という結論になりました。

大西的には、今後、弱小ロタだけで「ロタコーヒープロジェクト」を進めるには資金的にも、政治的にも、マンパワー的にも難しいものがあると感じています。ロタのキャピタルであり、資金力のある北マリアナ政府(The Commonwealth of the Northern Mariana Islands /CNMI)を絡ませた方が得策と感じています。幾ら北マリアナ政府に財源がないといっても、ロタ政庁よりも財源があります。それもあって、サイパンが希望するなら、ロタへの金銭的見返りを条件にデビットたちの指導で観光コーヒー農園をサイパンに造るプランを提案した次第です。

大西の発案はいつも皆がアグリーという訳ではありません。かつて、アスアコドでフォレストコーヒーを発見した時、一刻も早く観光コーヒー農園を造るためとして、コーヒーの木だけを残して、周囲の雑木を伐採してしまうことを提案しました。その時も、島民たち皆に大ブーイングされ却下されました。最近では却下された方が、後々正解の結果になることが多々あると感じています。でも、発案から物事が進むのも事実です。

【山奥のフォレストコーヒー群生地へ】

天候のタイミングを見て、デビットたちDLNRスタッフと一緒にジャングル奥地にあるフォレストコーヒー群生地アスアコド地区へ出かけました。我々の来島に合わせて、厄介なブッシュを切り開き、アスアコドまでのトレイルが作ってありました。我々が来る都度にトレイルを切り開いてくれます。何度も切り開くうちにだんだん道らしくなってきました。そして、そのトレイルの始点まで行くのにカッコいい四輪駆動の作業車が2台も用意してありました。今までになかった歓迎表現です。そして、ようやく辿り着いたアスアコドではコーヒーの実はすでに落下して、根元には多くの若木(20~30cm)が育っていました。また、葉っぱの根元に花の小さな蕾がたくさんありました。

現時点では、どれくらいの広範囲でフォレストコーヒーが生息しているのか、誰も把握できていません。また、いつ花が咲いて、実ができて、落下するのかという年間生育サイクルもはっきりと把握できていません。発見からすでに5年が経っていますが、アクセスが困難なため、また、マンパワー不足のため、未だに全体像の把握はできていません。UCC中平さんのアドバイスに従って、一部エリアを天然のシードバンクとして利用し、奥地の神秘エリアはそのまま残しておく方が観光資源としての価値は高まると感じています。

【サバナコーヒー農園でのガッカリ】

滞在中、1年ぶりにサバナ高原にあるコーヒー試験農園へ視察に向かいました。1年ぶりの訪問なので、期待半分不安半分で到着しました。到着時、前回にはなかったシェイドツリーとしてのバナナの木がドーンと目に入り、「おっ!」と期待したのですが、よく見ると、肝心のコーヒーの木は少なく、全くの期待外れ、がっかりです。

野生の鹿よけ金網フェンス内にシェイドツリーは立派に育っているのですが、肝心のコーヒーの木の本数が少ない、予定より少なすぎます。目標2400本のところたった400本程度しか移植されていません。但し、幸いなことに、移植してあるコーヒーの木の健康状態は良く、中平さんの指導による牛糞等々の手当ては忠実に実施しているようです。また、昨年の2度の台風も影響がないようです。問題はDLNRスタッフの超スローな移植スピードだけ。普段からのんびりおっとりの島民たちを日本から遠隔で背中を押し、モチベーションをキープさせる難しさを改めて痛感しました。

【課題は明白、作業のスピードアップ】

帰国前に市長室に集まり、アービー市長やデビット・カルボたちを交え、サバナ農園の作業のスピードアップに的を絞ってミーティングを行いました。ロタ島には大きなファミリーが数個あって、市長選挙の票を左右するほどの力を持っており、これらのパワーバランスを無視し、仕事上の効率だけで役人の人事異動は困難です。市長といえどもハチの巣をつつくような真似はできません。我々としては、サバナコーヒー農園への移植作業のスピードアップの重要性を伝え、可能な限りの対応をアービー市長にお願いしました。帰り際、アービー市長が半年後(6月)にその後の成果を視察に来て、と。そして、その日の夕方、我々はロタを発って、経由地サイパンへ移動しました。

【今後のTV番組】

今回、ロタ訪問初の矢島さんが、前回のNHKBS番組の続編ではなく、新たにイチから番組を作り直したいと言ってくれました。前回の番組ディレクターMはコーヒーチームから外れ、新たに矢島さんが番組プロデューサーとして加わりました。矢島さんは我々の言う「ロタコーヒープロジェクト」の6つのミラクルやロタバックス会議の重要性、さらには「我々の遊び心」も理解し、ロタ島民と我々KFCとの強い信頼関係も肌で感じてくれた様子でした。因みに、2023年に放映されたNHKBS番組「小さな島のコーヒー大作戦」はサバナコーヒー農園にコーヒー苗木を移植するドタバタ劇と焙煎機を手作りするシーンしかありませんでした。残念ながら、番組ディレクターが最後まで我々KFCとロタ島民との強い信頼関係を理解できなった故に「ロタコーヒープロジェクト」の肝の部分が全く織り込まれていない番組になっていました。パンデミックの最中、何のために3回も現地取材を敢行したのか?という感じです。百戦錬磨の強者、矢島さんは初訪問でそれらを理解したのです。

因みに、ロタバックス会議とは、大西が2017年6月19日にロタ市長室で役所の局長クラスを前に「山奥のどこかにあるとされる島伝承のコーヒーを皆で探そう」と強く呼びかけた会議です。皆のネガティブ意見に反して、当時のアタリック市長が「GO」の英断を下し、「ロタコーヒープロジェクト」が始動するきっかけとなった会議です。そのネガティブで騒がしい空気の中で友人アイクが「大西さん、ロタバックスでもつくるの?」とヤジを飛ばし、皆の笑いを取り、それがこの会議の名称の由来です。

【その半年後のロタ行き】

アービー市長の希望で、今年6月24日(月)から7月1日(月)にかけてロタ島へ行ってきました。今年に入って2回目の訪問です。その訪問メンバーは4人(中屋、樋渡、市川、大西)です。主なミッションはサバナ高原に造成したコーヒー農園における若木の植え付け作業の進捗状況をチェックすることです。この農園はロタDLNR(国土天然資源局)がフォレストコーヒー群生地であるアスアコド地区から採取した若木を移植し、世話し、育てています。半年前の訪問時に予定通り移植が進んでいませんでした。帰国前にその挽回策を市長室でホッコク市長も交えて皆で話し合い、6月末には頑張って3,000本の移植を目指すことで同意し、帰国しました。

到着したその日に、先ずはサバナコーヒー農園へ移植の進捗状況を確認に行きました。苗木に関しては半年前の2倍の大きさに育っていました。改めてロタはコーヒーの生育に適した環境と認識しました。

今回は、鹿よけ金網フェンス(50m×70m)の内側はほぼいっぱいにコーヒーの若木が植えてありました。本数を訪ねると1080本という。予定の3000本には程遠い。フェンスを増設しないとこれ以上の移植できないという。また、サブステーション(DLNRの作業場)には750本のコーヒー若木をキープしてあるという。しかし、問題は鹿よけ金網フェンスを増設する資金がないという。ここで、改めて、財源という厳しい問題に直面です。

【ロタ流の資金調達方法】

半年前の訪問時と大きく違うのはロタDLNRのスタッフ全員のやる気がひしひしと感じられたことです。サバナコーヒー農園内の手入れもよく行き届いており、そこに植えてあるコーヒーの木のコンディションも大変良い、素人目にもそれが分かります。葉っぱも緑色で艶があります。デビットはそれを「スーパーグリーン!」と表現していました。さらに、今後の財源確保も自分たちで考えていました。財政難に苦しむ北マリアナ政府ではなく、米国政府から補助金を得ようとしていました。半年前の訪問時にはなかった空気です。

因みに、以前から北マリアナ政府はメインアイランドのサイパン島の事業ならまだしも、人口の少ないロタ島の事業へは容易にお金を出しません。それをデビットはよく知っています。また、ロタコーヒーに関しては、サイパンのジェラシーも影響していると言います。ロタとテニアンには世界に誇れる魅力的な観光資源が眠っています。北マリアナ政府がそれを利用しないのは勿体ないと常々思っています。パンデミック後の多様性の現在において、ビーチリゾートを前面に押し出した旧態依然の、サイパン単独での観光産業復活をめざすのは時代遅れで、難しいと感じています。

米国政府の出先機関がサイパンにあり、そこが北マリアナ諸島への補助金関係を一手に担っているという。デビットがロタコーヒーへの補助金申請の交渉をするので、3日後の29日(土)、帰国の際、経由地サイパンで一緒にそこへ行って欲しいという。金網フェンスだけでなく、焙煎機や脱穀機、それにパッケージマシン等々、商品化までの一連の設備資金を申請するという。しかし、29日は土曜日なので「政府機関は休みでは?」と尋ねると、そこはワシントンDCに準じるので、土曜日は通常業務という。なるほど、日本と違って米国内には時差があるためです。

【物的証拠、大日本ビールとサクラビール】

6月の訪問時もアスアコド地区へ出かけました。そこで、一部が土に埋もれた「大日本ビール」(Dainippon Brewery Company Limited)の空瓶を見つけました。このビールは、1906年から日本で発売され、現在の「アサヒビール」と「サッポロビール」の前身に当たります。また、前回来た時は1913年から日本で発売された「サクラビール」の空瓶を見つけました。これらの空瓶は、ここが100年前に日本人が栽培していたコーヒー農園の跡地だという物的証拠です。まさに100年前に日本人が作ったコーヒー農園の跡地を我々日本人とロタ島民とで発見したということです。まさしく、産経新聞が言う「コーヒー、奇跡のリレー」です。おそらく、この辺りには日本人の住居があったのでしょう。

また、今回、初の試みとして、中屋さんがGPSを使ってフォレストコーヒー群生地の広さをざっくりと測りました。群生地の形は変則ひょうたん型で、長さは約3km、幅は長い所で約100mといったところです。フォレストコーヒーは道なきジャングルに生息しているため、正確な測量にはもっと時間を要します。

【米国出先機関での補助金交渉】

6月29日、ロタを発って、昼頃にサイパンへ到着しました。そして、午後2時にデビットと一緒に北マリアナ諸島への補助金を管理する米国出先機関のオフィスへ出向きました。これまでもデビットたちが何度か足を運んでいたようです。でも、決定権を持つ州行政官がロタにコーヒーの存在を信じることができず、交渉成立に至らなかったようです。しかし、この時は違いました。中屋さんがサバナ高原に造成したコーヒー農園の動画を即席に作ってくれ、それを見せて、交渉をしました。動画のプレゼン効果は抜群でした。ロタ島にコーヒーがあった事実に驚いていました。その結果、州行政官は前向きに対応するということでした。米国にとっては微々たる金額です。

今後、首尾よく米国からの補助金が捻出できれば、2026年にロタコーヒーを商品化し、フォレストコーヒー群生地アスアコド地区をエコツアーの観光資源として、大々的に世界へ向け観光プロモーションに打って出る予定です。さらに、スポーツイベントも開催し、開始から10年目という節目で、いったん「ロタコーヒープロジェクト」にひと区切りつけたいと思っています。

【今後のビジョン、世界自然遺産登録へ】

近い将来において、フォレストコーヒー群生地アスアコド地区を世界自然遺産に登録できないかと考えています。観光資源としての世界自然遺産の価値は計り知れないほど大きい。

コーヒーの世界遺産に関しては、南米コロンビアのコーヒー産地の文化的景観が唯一の世界文化遺産に登録されています。すなわち、人の手で植えられたコーヒー農園の美しい景観が対象です。しかし、我々の考えているのは、UCC中平さんが言う「サンゴの森に眠るコーヒー」の群生地を対象にした世界自然遺産です。そこで、アスアコド地区をよく知るUCC中平さんに相談すると「やってみる価値はある」とのことです。実現すれば、ロタ島だけでなく、北マリアナ諸島(CNMI )全体に大きな経済効果が期待できます。特に欧米ではエコツアーの人気はたいへん高いものがあります。久しく観光客の落ち込みに苦しんでいるCNMIですが、CNMI域内で世界自然遺産が登録されると、まさに一発逆転ホームランです。一気に世界中から多くの観光客がCNMIに押し寄せ、観光産業は爆発的に復活するでしょう。そうなれば、ロタだけでなく、サイパンにも新たに複数の航空会社がやってくるでしょう。因みに、現在はかつてのようにビーチリゾートだけでは十分な観光客を呼び込むのは不可能な時代です。

しかし、世界自然遺産への登録は我々外国人ではなく、ロタ政庁でもなく、CNMI政府が前面に出て動かねばなりません。我々がサポートすれば、不可能な話ではありません。しかし、問題は、CNMIのリーダークラスに世界自然遺産の話をしても、反応が鈍く、その価値や効果を理解してもらえません。もったいない話です。

【これまでの足跡】

■Rota Coffee Project2023 Part11の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2022 Part10の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2021 Part9の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2020 Part8の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2020 Part7の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2019 Part6の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2018 Part5の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2018 Part4の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2017 Part3の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2017 Part2の詳細は【こちら】をご覧ください。

■Rota Coffee Project2013 Part1の詳細は【こちら】をご覧ください。

2024/09/12 KFC記