新型コロナウィルスの影響で、2017年から我々KFCがロタ島政府と協力して本格的に取り組んできた「ロタコーヒープロジェクト」は、2020年4月ら現在まで足踏み状態にあります。
そんな中、2020年10月24日、突然、ロタ島DLNR(資源省:Department of Lands & Natural Resources)署長 デビットから彼がシナパル村に所有している農場のコーヒー木に緑や赤の実が付いている写真が送られてきました。 さらに翌11月12日には未踏のジャングル奥地にあるアスアコド地区のフォレストコーヒー自生地のコーヒー木の写真が 送られてきました。それにも赤く色づいた実が付いていました。因みに、フォレストコーヒーとは野生のコーヒーの ことです。
デビットの農場で栽培されているコーヒー木は2018年8月にアスアコド地区のフォレストコーヒー自生地から背丈が 15〜20pに 成長した幼木を持ち帰って、彼の農場に移植えたものです。今後の収穫を考えれば、車道のない、 アクセスの悪いアスアコド地区よりも車で容易に行けるシナパル村の農場の方がタイムリーに世話や収穫ができる からです。
そして、わずか1年半ほどで、彼の農場でも、それなりに収穫ができることが分かったのは大きな進歩です。 その写真からは、枝は細いながらも、実はたわわに付いています。ロタのコーヒー木は他産地と比べて枝が細いように 思います。この写真は、新型コロナウィルスでロタ島の 全ての経済活動がストップしていても、コーヒーは すくすく育つと云うことを示しています。
また、アスアコドのフォレストコーヒーに関しては、その写真から、シナパル村の農場のコーヒー木とは明らかに 趣が異なり、野生と感じます。その写真からは、天井部分には日差しが射していますが、木の下方の部分は薄暗く 見えます。おそらく、周りの樹木が茂っているので、 農場と比べ日照時間が短いと思われます。それ故、実が熟する まで時間を要すると云うことです。片や、農場の場合、元の幼木は同じなのですが、人工的に木と木の間隔を空け、 日当たりや風通しを良くしたからでしょうか、外見がすっきりしています。
でも、この状態で、過去80年間の長きに亘って、人跡未踏のジャングルで、その営みを繰り返して、人知れず、 生き延びてきています。UCC上島珈琲(株)の農事調査室長の 中平さんもアスアコド地区は世界的に貴重なコーヒーの生態系と評価されました。だから、ロタ島の誇れる宝物として、 また観光資源として、アスアコド地区の自生地はそのままそっとしておく方がベストです。収穫に関しては農場で、 アスアコド地区は観光資源として、2本立てで捉えることが良いと思っています。
かつて、大西はコーヒー自生地の コーヒー木だけを残し、他の樹木を全部切ってしまえば、効率よく、短期間でコーヒー農園が出来上がると 考えていました。しかし、今となっては、この浅はかな考えに強く異を唱えてくれたロタ島民に感謝です。 なぜなら、コーヒー木の成長には日差しは必須ですが、日陰も必要とする植物だからです。それに アスアコドと云う貴重なコーヒーの生態系も消滅してしまうからです。
現在、新型コロナウィルスの影響でロタ島への観光客はゼロです。観光産業の復活には相当の時間を要すると 思います。先ずはロタのキャピタルであるサイパン島の観光産業が復活しないと、ロタ島の観光産業の復活は あり得ません。 そして、現在、そのサイパン島の観光産業が悲惨な状況になっています。
サイパン島の友人によると、 飛行機が飛んで来ないので、観光客はゼロ、ホテルはクローズで、観光局スタッフの7割程度が解雇状態にあると 聞いています。政府財源のすべてを 観光産業に頼っているサイパンは、過去に経験したことがないほど厳しい状況に あると思います。米国領であるサイパンの経済復興は、米国のコロナ過が治まって、それからと思います。 早くて数年後、もしかしたら10年ほどかかるかもしれないと心配しています。
そんな状況下、10月中旬、ロタ市長エフレン・アタリックが役所の 各セクションのディレクターたち(日本でいう部長クラス)を集め 「観光業が当分ダメなので、今後は ロタコーヒーで経済を復活させよう。」とスピーチしたそうです。それを聞いて、エフレン市長に 「先ずは、サバナ高原にある政府所有の広大な土地にアスアコドからの幼木を苗木として移植する事業から 始めればいいよ。」と具体策をメールしました。しかし、現在、ロタ政庁の役人も給料がほとんど支払われていないので、 コーヒー事業にどの程度の資金とマンパワーを投入できるのか、不安です。
今年2月中旬、1月末にサイパンから持ち帰ったロタ島のフォレストコーヒーの品質検査の結果がUCC上島珈琲(株) 農事調査室から届きました。 これらのコーヒー豆はアスアコド地区のコーヒー自生地で2019年12月末から年始にかけ、 DLNRロタ島支部のスタッフたちが赤い実だけを摘んで、皮をむいて、乾燥させたものです。
品質検査の総合評価は以下です。
「Basic quality level was good. To remove the unpleasant flavors and taste,more intense selective picking at
harvest is essential. Also, well-managed post-harvest process andseparation of defect beans are necessary.
By appearance of green coffee, some damages by suckinginsects (brown spot) were confirmed.
Pest management will be necessary.」
要は、基本的な品質レベルは良好ですが、もっと丁寧な摘み取りをしなくてならないと云うこと、 それに乾燥のプロセスにおいても品質の劣る豆は取り除く必要がある等々です。DLNRには真っ赤に熟した豆だけを 摘み取るように伝えてあるのですが、未熟なピンクの豆も相当摘んでいるようです。それに害虫等々のダメージの ある豆は取り除く必要があると云うことです。 そして、現時点での品質評価の点数は77〜78点 (Current SCAA cupping score would be around 77-78)と云うです。因みに、80点以上が合格点で、 それらをスペシャルティコーヒーと呼ぶそうです。
戦後の約80年間もの長い時間を人知れずひっそりとジャングルの中で生き延びてきたコーヒーですから、 まずまずの評価と思っています。今後、赤く熟した豆だけを摘むことや乾燥プロセスを素早く行うこと等々、 UCCからのご指摘を実行していけば、品質スコア80点を超え、 スペシャルティコーヒーの領域に達すると思います。
今後最大の問題は、あのアバウトなロタ島民たちをどのようにしてコーヒー豆収穫と云う緻密で忍耐を要する 作業につかせるかです。 かつて北マリアナ諸島(サイパン・ロタ・テニアン)政府がビザ発給の自治権を持っていた 頃は、農作業用にフィリピンやバングラデシュから出稼ぎ労働者を雇い入れていました。だから、これまでロタ島民は 肉体労働をしたことがありません。
しかし、現在は「連邦化」 されてしまったので、外国人の出稼ぎ労働者はいません。だから、デビットたちロタ島民(チャモロ人)が農作業と いうに肉体労働をせねばなりません。そんなことは彼らが汗を流せば済むことで、それよりも、コーヒーの知識が 全くのゼロだったロタ島民や我々にKFCに多くのことをご指導頂いたことが重要で、UCC上島珈琲(株)には本当に感謝しています。
今年1月にUCCに検査用として提出したフォレストコーヒーの残りの豆の一部を友人である 「アスロンコーヒー焙煎所」の 阿部さんに焙煎を お願いしました。もちろん、品質検査とは別に我々が直に試飲するためです。石灰岩が隆起した太古の森が80年間 護り育てた神秘のコーヒー、どんな味がするのだろう。期待と不安でいっぱいでした。
実は焙煎の過程にたどり着くまでに厄介な問題がありました。それは、ロタ島には未だ脱穀機がないため、 我々が持ち帰った乾燥豆は全て殻付きの状態でした。 それらを焙煎前に阿部さんが一粒づつ手で殻を破って取り除き、 豆の部分(我々が一般に目にする中身)を取り出してくれました。阿部さんもこの時までコーヒー豆が殻に 覆われてるとは知らなかったと云う。日本へ輸入されるコーヒーは全てが脱穀された状態で入って来るとのことです。 因みに、コーヒー豆は赤い皮をむくと豆があるのではなく、固い殻があり、 その中に我々がイメージするコーヒー豆があります。デビットたちも殻の存在は知らないと思います。今でも、 赤い皮をむけば、その中に豆があると思っています。
今年2月10日(月)、KFC本部である「成木の家」に焙煎済みのコーヒー豆を持って来てくれました。約80年ぶりに 人の手で収穫された豆です。その焙煎された豆の状態や色、それに味や香りにもたいへん興味があります。そして、 それらの豆の大きさ、形、色ともに 申し分ありませんでした。茶色で艶があって、見た目にも綺麗です。香りも、 当たり前ですが、コーヒー独特の香りがしました。なぜか、それだけで安堵です。
阿部さんがその焙煎済みの豆を我々の目の前で挽いてくれ、ドリップで淹れてくれました。そして、 いよいよ試飲です。どんな味がするのだろうか。阿部さんの試飲の感想は「さわやかですが、味も香りもしっかり あって、美味しい。」と云う感想でした。やれやれ、安堵です。でも、焙煎のやり方次第で味や香りは変えることが できると云うことです。だから、今後、十分な量の豆が入手できたら、 それらの豆を使って最適の焙煎方法を 試してみると言ってくれました。
もちろん、我々も飲んでみました。口当たりはまろやかで、すっきりさわやかな味と感じました。コーヒーの味は その土地柄にあると云われています。その自生地を知っている我々には、このコーヒーが育ったロタ島の石灰岩が 隆起したアスアコド地区の太古の森を彷彿させる味でした。 アスアコド地区は一見複雑で深いジャングルに見えますが、 アフリカやアマゾンのそれとは違って、土壌が真っ白い石灰岩のクリーンな森です。その味はそれが育った環境を 表すと云います。 そして、そのコーヒーを飲むことで、太古の森のエネルギーを吸収できたような気がしました。
また、試飲後、残りの豆を挽いて、100g(=0.22lb)のパック詰めを5つ作ってみました。アラビカ種ティピカ100%の オーガニックです。 カップ1杯分の抽出には10gの粉が必要ですから10杯分と云う計算になります。そして、今後、 これがロタ島での販売用商品のサンプルパッケージの基本となります。因みに、コーヒー豆は焙煎後にも豆からガスが 発生するため、 パッケージ袋に極小の穴が開いたコーヒー豆専用のものを阿部さんからもらいました。
また、販売価格は観光客が買いやすい金額の10ドルを考えています。 とにかく生産量が少ないので、ロタ島を 訪れた観光客用の販売を軸に考えています。おそらくインターネットを使えば、すぐに売り切れると思いますが、 それでは島の観光に寄与しないし、島民たちに実感が湧きません。コーヒーがお金に変わることを実感してもらうこと が大切と思っています。
そして、商品ラベルにはその紹介文として 「This coffee came from Kona, Hawaii 100 years ago. This Coffee woke up from 80-years sleep in the deep jungle of Rota. 」(このコーヒーは100年ほど前に ハワイ島コナからもたらされたもので、ロタ島の深いジャングルでの80年間の眠りから目覚めた。) の文言を 入れました。
早急にこれらのパッケージされたコーヒー豆をロタ島民へ届けねばなりません。その時、運よくロタの ダイビングショップ「ブルーパームス」のメグミさんが日本へ 戻っていたので、これらのパッケージをロタへ持ち帰り、デビットたちに手渡して欲しいとお願いしました。 そして、ロタへ戻ったメグミさんが、3月6日にコーヒーのパッケージをデビットに手渡してくれました。 昨年末に自分たちの手で摘んだコーヒーチェリーが商品としてパッケージされ、最終形を目の当たりにすれば、 いかにゆるいロタ島民と云えども、やる気が湧いてくるものです。デビットたちのモチベーションをキープさせるのが、 このプロジェクト成功の鍵です。しかし、現在の悩みは、販売用コーヒーパックができても、コロナ過で観光客が来ないことです。
さて、誰もが気になるブランド名ですが、「Rota Blue Coffee」に決まりました。名付け親はUCC農事調査室長の 中平さんです。ロタ島訪問時、飛行機から眼下にロタ島を見下ろした時、島の周りの青い海の色を見て、浮かんだと 云うことです。
このブランド名は我々KFCだけでなく、 デビットも気に入っています。「Rota Blue」の付く、 このブランド名はロタ島民の誰もが再開を願う「Rota Blue Triathlon」をイメージでき、 ロタ島民の誰もがAgreeすると 確信できます。近い将来、このコーヒーが久しく低迷するロタ島経済復活の起爆剤となり、 ロタ島民の誇りに なってくれれば、と願います。そして、ロタ経済の「捲土重来(けんどちょうらい)」につながれば、と切に願います。
当初、コロナ過がなければ、今年8月末にはUCCの中平さんと朝日新聞記者の2者と共に、ロタ島へ行き、 DLNRのデビットたちに対してコーヒー栽培の指導と、ロタコーヒーの存在を朝日新聞に掲載して頂く予定でした。 しかし、それらの計画もすべてコロナ過で消滅しました。
また、3月21日開催予定だったタガマントライアスロン大会でサイパンへ行った時、アスアコドのロタコーヒーを 持ち帰って、支援者の皆さんにお送りして、試飲して頂こうと思っていました。それで、このプロジェクトも 一区切り付くと思っていました。しかし、その計画も、タガマン大会の突然の中止で、我々のサイパン行きも 消滅しました。原因は、大会直前に同じマリアナ地区のグアムでコロナ陽性が出たことです。それを受けて、 すでに収穫済みのコーヒー豆を日本へ送るようにロタのデビットに依頼しました。因みに、我々KFCのサイパンでの 定宿は、ロタ島民たちのサイパンでの定宿と同じで、我々に渡すための荷物(ロタコーヒー)はロタからここへ 送られてくるという仕組みです。
4月6日、川崎東郵便局から連絡があり、ロタから荷物が届いているということでした。しかし、農林水産省 横浜植物検疫所から現地政府発行の検査証明書が添付されていないので、引き渡せないとのこと。原本を送ってくれば、 渡せるとのこと。PDFファイルではNGとのことで、急きょ、デビットに検査証明書を大西へ郵送するように伝えました。
しかし、その頃は北マリアナ諸島(サイパン、ロタ、テニアン)もコロナ過で政府機能がシャットダウン、 そのため政府の公文書である検査証明書が発行できないとのこと。結局、その後、それらのコーヒー豆は送り主へ 返送されることになりました。しかし、未だにデビットの元へ届いていないとのこと。おそらく、コロナ過で飛行機が 運行していないためと思います。ロタはアメリカ領ですからアメリカのコロナ対策が適用されます。しかし、ロタ島は 全島民がPCR検査の結果、コロナ陽性者はゼロということです。
今後の展開としては、世界的なコロナ禍の終息を待つ以外はなさそうです。それにしてもこんな恐ろしい災い が起こるなんて、またしても「人生、一寸先は闇」を実感しました。
■Rota Coffee Project2020 Part7の詳細は【こちら】をご覧ください。
■Rota Coffee Project2019 Part6の詳細は【こちら】をご覧ください。
■Rota Coffee Project2018 Part5の詳細は【こちら】をご覧ください。
■Rota Coffee Project2018 Part4の詳細は【こちら】をご覧ください。
■Rota Coffee Project2017 Part3の詳細は【こちら】をご覧ください。
■Rota Coffee Project2017 Part2の詳細は【こちら】をご覧ください。
■Rota Coffee Project2013 Part1の詳細は【こちら】をご覧ください。
2020/11/24 KFC記