Ironman 70.3 Saipan 2017
このイベントは、終わった後の達成感よりも、やっと終わった。そして、何とか責任は果たせたという気持ちが非常に 強いイベントでした。
アイアンマンシリーズはフランチャイズビジネスなので、WTC(World Triathlon Corporation)からのシキタリが多くあります。 これまで思うがままにやってきた KFCにとって、これほど忍耐を要して立ち上げた大会は後にも先にもありません。
一難去って、また、一難の連続。2016年始め、トライアスロン雑誌ルミナからの “サイパンでアイアンマンができないだろうか”と いう問合せがあり、それから始まった本当に長い1年間でした。
WTCとの契約はルミナが担い、現地サイパンでの大会運営やチャーター便の 手配等々はサイパンに精通したKFCが担うというものでした。
3月頃から始めた現地サイパンの調整も済み、関空と成田からのチャーター便の手配も完了し、ルミナのWTCとの契約を待つだけとなった 10月初め、突然、ルミナからWTCとの契約ができなくなったと連絡が入りました。理由は親会社の都合と云うことです。
ビジネスの 世界ではよくあることですが、ルミナのスタッフも現地サイパン観光局も、我々KFCも唖然としました。半年以上かけて準備してきたのにです。 我々としては、 当初からこのパターンを一番恐れていました。まさにてっぺんまで上ったところで梯子を外された格好になってしまいした。
それでもやらないと、これまで尽力してくれた多くの協力者に多大なダメージを与えます。翌々日にアイアンマン開催の経験が 豊富な白戸太朗(タロウ)さんに電話して、事情を説明しました。
タロウさんと大西はロタブルートライアスロンや青梅の トレラン大会を通して、20年来の親しい友人です。そして、島でのKFC活動やサイパン事情をよく知るタロウさんは快く引き受けてくれ、 結局、ルミナの代わりをアスロニアが担ってくれることになりました。本当に感謝です。
その後、紆余曲折はありましたが、ようやくサイパン島でマリアナ政府観光局とアスロニア、そして、我々KFCの3者で アイアンマン70.3サイパンの開催にこぎつけました。
初めてということで産みの苦しみが多々あり、開催日は当初の2017年1月から奇しくも 東日本大震災発生日と同じ3月11日(土)になってしまいました。
大会当日、晴れ、南の島らしい良い天気です。まだ夜が明けきらぬ5時半頃から大会会場のパウパウビーチ公園に参加者が続々と 集まってきます。参加人数は約180人です。
内訳は、約80人が日本から、その他約100人はアジア、アメリカ、欧州からの 参加者です。 少ないながらも、やはり海外のアイアンマン大会の雰囲気満載です。
当初は参加者500人位を予定していました。その根拠はロタブルートライアスロン大会の過去参加人数(100人〜150人)を参考に、 サイパン島の知名度とアイアンマンの神通力 を考慮してロタ大会の2倍と想定し、日本人300名、そして、アジアを始めとするその他の18か国から200名です。
ところが、 募集開始日が人気大会の宮古島大会の募集締切日の翌日(12月1日)になったり、他の近隣のアイアンマン大会と 重なったりで、なかなか思うような集客につながりませんでした。捕らぬ狸の皮算用でした。その結果、非常にスロットの 入手しやすい大会になってしまいました。
スタート時間は7時です。スイム会場のパウパウビーチ沖は波もなく穏やかで鏡のようです。沖にはサンゴ礁があり、 それが防波堤となって、スイムコースは広大な塩水プールといったところです。
水は青く透明です。水深は最も深い所でも2mくらいで安心感のあるコースです。世界中に数多あるアイアンマンレースの中でも、 これほど綺麗で、安心感のあるスイムコースは他のアイアンマンレースにはないと思います。スイムの苦手な人には持ってこいです。
7時ジャストにサイパン市長David M. Apatangの号砲で競技が始まりました。全選手、沖の第1ブイに向かって泳ぎ出し ました。 背後からの陽射しが選手を照らし、ブルーの海に黄色いブイが鮮やかです。コースは1辺が300mほどの トライアングルを反時計回りに 2周回です。距離は1.9qです。
因みに、黄色いブイはロタ島から送ったもので、 設営は現地サイパンのトライアスロン連盟の友人たちが担ってくれました。 約30分後、韓国人選手の一団がトップで スイムアップしてきました。
バイクは90qです。まず最初はダイナミックな風景が広がる北部丘陵地帯へ向かいます。ここには標高100mほどの 丘越えがあります。
そして、丘陵地帯をクリアしたらフィリピン海に面したサイパン島の西海岸を南下し、ダウンタウンを 抜けて、折り返し地点である 島南端にあるパシフィックアイランドホテル(PIC)を目指します。北部丘陵地帯以外は フィリピン海に面したフラットの海岸通りです。
ランはパウパウビーチ公園からバイクコースと重なる北部丘陵地帯へ。大自然の中のランと言った所です。 2往復で距離21.1qです。 往路は緩い上り、復路は下りというコース設定で、気分よくゴールできると云った設定です。
優勝は韓国人のKwang Hoon Lee(4:46:19)です。2位も韓国人Gyu Hyung Lee、3位はロシア人Igor Lysov、 4位に日本人Yamada Kensaku(4:56:20)、そして、8位には極寒のスウェーデンから来たErik Graffner(5:19:01)です。 温度差は30〜40度くらいはあったのでは。
そして、女子優勝はアメリカから来たJayme Bograd(5:23:40)でした。2位もアメリカ人Jennifer Harmon(5:45:06)、 3位はグアムから来たRachel Martin(5:50:10)でした。
サイパンには四半世紀に亘ってタガマンを運営してきたタガインクという組織と現地トライアスロン連盟があるので、 これまで我々KFCは表には出ず裏方のサポートに徹してきました。
でも、今回はアイアンマンというワールドクラスの イベントなので、大西の持つ南の島ネットワークをフルに使い、島の有力者や トライアスロン連盟の友人たちの協力、且つ、マリアナ観光局の全面協力を得て、初めてKFCが表に出て立ち上げたイベントとなりました。
第1回目と云うことで決して満足いく運営ではありませんでしたが、結果的には、大きなケガもなく、心配された脱水症に 陥る選手もなく終えることができました。そして、万が一に備え、本部テントの医療チームには大西の知人のドクターやナースたちが スタンバってくれ、心強い限りでした。
今回、レースディレクターは観光局スタッフのエドを指名しました。 彼は入局した19歳の時から今日までの25年間を KFCイベントでの 大西のアシスタントを務めてくれ、いちいち口にせずとも大西の考えを理解してくれます。それに、KFC流のトライアスロン競技の運営ノウハウは全て熟知しており、頼りになります。
彼のような地元の人間を育てておくのはサイパンの将来には大きなプラスとなるはずです。結果は予想通り満足のいく働きでした。 サイパンにとっては大きな成果です。
大西にもエドにもアイアンマン独特のシキタリはまだよくわからないので、アイアンマンとしてのイベント全体の流れは タロウさんたちアスロニアに担ってもらいました。特にロールダウンセレモニーは全面的にアスロニアに担ってもらいました。 流石に手慣れたものでテキパキ進行していました。
成田空港からデルタ便が1日1便しか飛んでいないサイパンでワールドクラスのイベントをやるのはしんどいものがあると 痛感しました。因に、現在、大阪や名古屋からサイパンへのレギュラーフライトはありません。
それでも、サイパンホスピタリティに加え、スイムコースの美しさ、バイクとランコースの素晴らしさは数多あるアイアンマンシリーズでも ピカイチのロケーションと思います。
繰り返しになりますが、終わった後の達成感よりも、やっと終わった。そして、何とか責任は果たせたという気持ちが強く残ったイベントでした。
写真:小野口健太 動画:中屋重男