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6月8日夕方、突然、檜原村役場教育委員会から大西の携帯に電話がかかって来た。
その内容は、10月2日に檜原村が開催を予定しているヒルクライムレースの競技運営を手伝って欲しいと云うものだった。
唐突な話であり、電話の向こうの雰囲気から、どことなく“急を要する気配”を感じたので、とにかく、会って、大西に電話をされた経緯を聞かせてもらうことにした。
翌週始め、大西と原さんとで檜原村役場教育委員会を訪ねた。そして、我々KFCの協力を必要とする理由と、ここに至った経緯を聞かせてもらった。
2013年に檜原村が東京国体の自転車競技コースの一部になることが決まっている。その参考になればと、昨夏、我々が開催した 「東京ヒルクライムOKUTAMAステージ」を見学された。そこで、檜原村にもヒルクライムレースができるのではないか、という考えに至ったと云う。
これまで檜原村には全国区のスポーツイベントはなく、何かできないか、と云う思いがずっとあったと云う。 そんな下地があって、1年ほど前から国体を通じ知り合った某自転車連盟に競技主管をお願いして、開催日を10月2日に定め、熱心に準備を進めて来たと云う。しかし、 ここに来て両者の目指すものが違っていたようで、突然、断わられたと云うことだった。
この界隈で自転車レースの運営をやっている団体はそんなにはない。自転車レースの運営はマラソン競技と違って、安全面の担保が相当に難しい。 それに開催予定日まで4カ月ほどしか時間がない。
ということは、 遅くても8月1日には募集を開始しないと10月2日の開催は難しい。差引き2か月足らずしか時間が残っていない計算になる。
そんな状況下、昨年のOKUTAMAステージを見学されたこともあって、ダメ元で、大西に電話された、ということだった。そして、 我々KFCに檜原村の考えに沿った大会を立ち上げて欲しい、という依頼だった。
10月2日には重複する他のKFCイベントはないし、何よりもの教育委員会職員の熱意が伝って来るのがいい。
どんなイベントでも「やるか、やらないか」は パートナーとなる人たちの気持ちの如何で決まるものだ。これまでも反りの合わない人たちとのイベントは、国内外を問わず、断ったり、 キャンセルしたりしてきた。
教育委員会の説明が終わった時、気持ち的には「よし、一丁やったろか」と思ったが、予定のコースを見ないことには何とも言えない。 隣席の原さんも同じ考えのようだ。 阿吽の呼吸で分かる。時間の余裕がないので、早速、その足で計画されているコースを案内してもらった。
案内されたコースは、檜原街道の上川乗地区をスタートして、奥多摩周遊道路の「都民の森」がゴールとなっていた。コースは悪くないのだが、手伝うに当たって、 一つ不満があった。
それはゴール地点だ。中腹にある「都民の森」がゴールでは坂を上る競技であるヒルクライムレースの魅力にイマイチ欠ける。そこで、 3kmほど上にある東京都の道路最高地点である風張峠をゴールにすることを提案した。
次に、参加人数が100人と聞かされ、驚いた。すでにその人数で警察へ計画書が提出されているということだった。100人とした理由は上川乗地区に駐車場となる スペースがないということだった。ただそれだけがその理由だった。
それならば、発想を変えて、檜原村総合運動場を駐車場として使うことで、参加人数を300人に変更することを提案した。 上川乗と総合運動場は約10km離れているが、マラソンと違って、自転車レースだから10kmの移動はそれほど問題ではない。30分ほどあれば移動できる。
檜原村にとっては参加人数が僅か100人ならば、開催を中止した方がいい。イベント開催にはたいへんな労力とお金を必要とする。それなのに、 この数字では村興しにはほど遠い。この手のイベントは村興し抜きでは存在価値はないというのがKFCの考え方だ。
さらに、ここでもっとびっくりすることを聞かされた。何と、まだ、肝心の警察の許可が下りていないというのである。思わず「えーっ!」と 声が出てしまった。これまで十分時間があったので、当然この部分はクリアされているものと思っていたからだ。
警察の許可が下りていないレースは「絵に書いた餅」であり、告知したり、募集したりすることすらできない。残された時間は余りにも少ない。
檜原村主催ということで、村民の同意や公の信用はある。しかし、村には実際の競技運営のノウハウも経験もない。だから、競技運営を警察に説明するための 書類を作成することができないのだ。これでは競技の安全性が担保できず、警察が許可を出せないのは当然だ。
幸い、我々は競技運営の経験もノウハウもそこそこにある。それに警察の許可をもらう為の企画書も青梅警察へ幾度となく提出している。そんなこんなで青梅警察から 多くのことを学んでいる。
早急に、それらを参考にして、檜原大会の許可申請の書類を作成し、教育委員会の職員と一緒に五日市警察署へ説明に出向いた。急がないと、 募集期間がなくなり、今年度の開催は諦めねばならない。
その数日後、五日市警察署からOKの返事が教育委員会へ届いた。その内容は、ゴールは風張峠でもOKだが、募集人員は100名のままで、という内容だった。 しかし、来年は駐車場のスペースに応じた参加人数にしても良い、ということなので、将来の継続は可能だ。これでやっと前へ一歩踏み出せた。
次に、これをもって道路の所有者である東京都建設局の西多摩建設事務所の許可をもらわなくてはならない。そして、ここでも経験者と云うことで教育委員会の職員と 一緒に説明に出向いた。
そして全ての手続きがクリアしたのは、7月末日というギリギリのタイミングだった。そして、何とか予定の8月1日にホームページ上で募集を 開始できたという次第である。
それと平行して、募集に関する一切と競技の専門的な分野は我々KFCとWachiレーシングチームが担い、マンパワーを必要とする村内の調整は教育委員会が やるいうことで急ピッチで準備を進めた。
そして、10月2日、当初の予定通り「第1回東京ヒルクライムHINOHARAステージ」を開催することができた。
我々のアドバイスとサポートがあったとはいえ、 檜原村教育委員会の熱意と努力、それに、村民挙げての多大な協力で大成功を収めることができた。
何事も、0から1を作るのが一番大変な仕事だ。今年、何とかその1を作り上げることができた。来年は経済効果が期待できる程度に参加者を集め、且つ、 将来的には村民の皆さんが誇りに思えるようなイベントに育つよう努力したいと考えている。
数馬の湯、檜原村観光協会、東京都森林組合、五日市警察署、東京都建設局西多摩建設事務所、Wachiレーシングチーム
写真提供:小野口健太、池田将、舘岡正俊、市川幸次